定量分析化学実験書


2.酸化還元滴定

 酸化還元滴定は,酸化剤または還元剤の標準溶液を用いて,試料を完全に酸化または還元するのに要する量を測定し,その物質を定量する方法である。

 酸化剤として用いられるのは,過マンガン酸カリウムKMnO4,ヨウ素I2などで,還元剤として用いられるのは,チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3,硫酸第一鉄FeSO4などである。

 酸化還元滴定の当量を求めるには,次の2方法のいずれかを用いる。

(1)中和反応と同じように,水素1グラム原子または酸素1/2グラム原子を基本として定める。

(2)化学反応に察し,変化する原子価から当量を算出する。それには,分子量をその原子の原子価の変化する数で割ればよい。

2.1過マンガン酸カリウム滴定

当量の計算

FeSO4のH2SO4酸性溶液に過マンガン酸カリウム溶液を加えると,次の酸化反応が起こる。

2KMnO4 + 8H2SO4 + 10FeSO4 → 5Fe2(SO4)3 + K2SO4 + 2MnSO4 + 8H2O

今この反応を2段に考えると、次のようになる。

2KMnO4 + 3H2SO4 → K2SO4 + 2MnSO4 + 3H2O + 5O

(2KMnO4 → K2O + 2MnO + 5O)

10FeSO4 + 5O + 5H2SO4 → 5Fe2(SO4)3 + 5H2O

 すなわち2分子のKMnO4から5原子の酸素が発生し、これが10原子のFe2+を酸化してFe3+としたのであるから、2分子のKMnO4は10原子の水素に相当する。つまりKMnO41分子は5原子の水素を酸化できるので、頭領は1/5分子量である。

 またこの反応における原子価の変化を見ると、Mnは7価から2価となって、5価だけの変化があるので1g当量は

 この反応の終点はMnO4自身の淡紅色によって示される。過マンガン酸カリウムを滴下していくと、上の反応により淡紅色のMnO4は、ほとんど無色のMn2+となるが、終点に達すればきわめて少量の過剰のMnO4により淡紅色となり、終点を知ることができる。

2.1.1 0.02 M過マンガン酸カリウム溶液の標定

[要点]

過マンガン酸カリウム溶液の濃度を標定するのに、シュウ酸ナトリウムを標準物質として、次の反応によって行う。

5Na2C2O4+ 8H2SO4 + 2KMnO4

→ 2MnSO4 + K2SO4+ 5Na2SO4 + 10CO2 + 8H2O

 この反応から明らかなように、KMnO4の2グラム分子がNa2C2O45グラム分子と当量であるから次のようになる。

[操作]

1.0.02M過マンガン酸カリウム溶液は用意してある。(一人250ml)

2.シュウ酸ナトリウム(105〜110℃で2時間乾燥済み)約0.15gを精秤し、約50mlの熱湯(80〜90℃)に溶解する。これに硫酸(1:1)約<10mlを加え60〜70℃に熱する。

3.ビュレットから過マンガン酸カリウム溶液を滴下する1)。初めの数滴では、 MnO4の淡紅色が消えるのに時間を要するが、一度反応が開始されればその後の反応は円滑に進行する。過マンガン酸カリウムの滴下量は1度に0.5〜1ml以上加えないようにし、溶液の温度は60>〜70℃2)の間に保つようにする。

4.終点が近づくと色が消えにくくなるので、一滴ずつ前の色が消えてから加え、最後の一滴の淡紅色が15秒以上続くときを終点とする。

5.シュウ酸ナトリウムの採取量と滴定値より過マンガン酸カリウム標準溶液の濃度を求める。

6.シュウ酸ナトリウム約1.7gを精秤し、メスフラスコで250mlとする。

7.この溶液20mlをホールピペットでコニカルビーカーにとり、熱湯約50ml、硫酸(1:1)約10mlを加え、上記(3〜4)に従い滴定を行う。

8.3回の滴定値の差が0.05mlになるまで繰り返し、その平均値より過マンガン酸カリウム標準溶液の濃度を求める。

1)過マンガン酸カリウム標準溶液の色は濃いので、ビュレットに入れた場合メニスカスの下端が見にくく、目盛りが読みずらいので図2.1のように、水ぎわのBB'の線を読むことになっている。

2)滴定温度が60℃以下になれば反応速度がおそく、80℃以上になると次の反応が繰り返され、KMnO4が限りなく消費される結果となる。

3MnSO4 +2KMnO4 + 2H2O → K2SO4 + 2H2SO4 + 5MnO2

この式は、Na2C2O4とKMnO4との反応で生じたMnSO4が、新たに加えられるKMnO4 と作用する反応式である。上の式の反応で生じたMnO2 がH2SO4 と作用して生ずるMnSO4が、加えられるKMnO4と作用する。

2MnO2 + H2SO4 → 2MnSO4+ 2H2O +O2

2.1.2 硫酸アンモニウム鉄(U)(モール塩)中の鉄の定量

[要点]

この滴定はつぎの反応により行われる。

2KMnO4 + 10FeSO4(NH4)2SO4 + 8H2SO4

→ K2SO4 + 2MnSO4 + 10(NH4)2SO4 + 5Fe2(SO4)3 +8H2O

この滴定反応では (NH4)2SO4 は酸化反応には関係ないので、直接関係のある FeSO4 だけを残して表わすと次式になる。

2KMnO4 + 10FeSO4 + 8H2SO4 → K2SO4+ 2MnSO4 + 5Fe2(SO4)3 +8H2O

この反応式から明らかなように、 KMnO4 の1グラム分子は5原子のFe2+ を酸化してFe3+ とするから1M過マンガン酸カリウム1000mlは55.85×5gのFeを酸化する。

よって

となる。

[操作]

1.硫酸アンモニウム鉄(U) FeSO4(NH4)2SO4・6H2O約1gを精秤する。

2.これを硫酸(1:1)5mlを加えた水約100ml中に入れて溶解し、これをメスフラスコで250mlとする。

3.この溶液20mlをホールピペットでコニカルビーカーにとり、水を加えて約100mlとし、0.02M過マンガン酸カリウム標準溶液で滴定を行い、淡紅色に着色したときを終点とする。

4.滴定結果より、硫酸アンモニウム鉄(U)の純度及び硫酸アンモニウム鉄(U)中の鉄の含有率(%)を求めよ。

2.2ヨウ素滴定

 ヨウ化カリウム溶液に酸化作用のある化合物を加えると、容易に酸化されてヨウ素を遊離する。ここに遊離されたヨウ素を濃度既知の還元剤を用いて定量すると、間接に酸化剤の量を知ることができる。そしてこの遊離ヨウ素の滴定にはチオ硫酸ナトリウムNa2S2O3標準溶液を用いる。ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムとの間に起こる反応は次のようである。

I2+2Na2S2O3 → 2NaI + Na2S4O6

 この反応の終点はヨウ素自身の色の消失によって知られるが、でんぷん溶液を加えて濃青色を生じさせ、これが消えるときを終点とすれば明瞭に確認することができる。この方法は遊離ヨウ素を定量するだけでなく、ヨウ化物を酸化して遊離ヨウ素を生成する物質も定量できる。

2.2.1 0.1Mチオ硫酸ナトリウム標準溶液の調製

[要点]

 塩酸で酸性とした二クロム酸カリウム溶液にヨウ化カリウムを加えたとき起こる反応は、次のとおりである。

KI + HCl→ KCl +HI (1)

K2Cr2O7 + 8HCl → 2KCl + 2CrCl3 + 4H2O + 3O (2)

2HI + O → H2O + I2 (3)

(3)のヨウ素がでんぷんを暗青色に着色する。

 (1)(2)(3)式をまとめると、二クロム酸カリウムと塩酸とヨウ化カリウムとを混ぜたときに起こる反応を表わす式(4)を作ることができる。

K2Cr2O7 + 14HCl + 6KI → 8KCl + 2CrCl3 + 7H2O + 3I2 (4)

 この反応が起こっている溶液にチオ硫酸ナトリウム溶液を加えると、(4)の反応で生じたヨウ素とチオ硫酸ナトリウムとが次のように反応する。

I2 + 2Na2S2O3 → 2NaI + Na2S4O6 (5)

滴定においてこの反応が完結すれば、ヨウ素が溶液内に存在しなくなり、それによってヨウ素でんぷんの青色が消える。

式(4)(5)から次のような当量関係になる。

K2Cr2O7 ≡6I,  I ≡ Na2S2O3

[操作]

1.二クロム酸カリウム約1.2gを精秤する。

2.この粉末をビーカーに入れ、50ml〜100mlの水を加えて溶解し、メスフラスコで250mlとする。

3.チオ硫酸ナトリウム約13gを水に溶解して500mlとする。

4.二クロム酸カリウム標準溶液20mlをホールピペットでコニカルビーカーにとり、濃塩酸約5mlを加えて酸性にした後、ヨウ化カリウム約1gを加えて溶解する。

5.この溶液を0.1Mチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。溶液の色がうすくなったならば(褐色→淡黄色)でんぷん溶液1)0.5mlを指示薬として加える。

6.加えるチオ硫酸ナトリウム溶液の1滴で、でんぷんの青紫色が消えるときを反応の終点とする。

7.滴定結果より、チオ硫酸ナトリウム標準溶液の濃度を求める。

1)でんぷんの作り方

 可溶性でんぷん約0.5gに少量の水を加えてよく練り混ぜ、これを沸騰水約50ml中に少量ずつ加え、透明になるまで煮沸する。この溶液は腐敗しやすいので、新たに調製したものを使用するほうがよい。

2.2.2 硫酸銅中の銅の定量

 硫酸銅溶液中にヨウ化カリウムを加えると、次の反応により定量的にヨウ化第一銅Cu2I2を沈殿し、ヨウ素を遊離するから、このヨウ素をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定する。

2CuSO4 +4KI → Cu2I2 + 2K2SO4 + I2

 この反応式より明らかなように、2グラム分子のCuSO4は1グラム分子の>I2と当量であるから、当量関係は次のようになる。

2CuSO4 ≡ I2、 I ≡ Na2S2O3

CuSO4 ≡ I ≡ Na2S2O3

よって

1M Na2S2O31000ml ≡ 63.54gCu

0.1M Na2S2O31ml ≡ 0.006354gCu

となる。

[操作]

1.硫酸銅 3g精秤する。

2.これをビーカーで少量の水に溶解し、6M酢酸10mlを加え、メスフラスコで250mlとする。

3.この溶液20mlをホールピペットでコニカルビーカーにとり、ヨウ化カリウム約1gを加え、0.1Mチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定する。

4.でんぷん溶液は、ヨウ素の褐色がうすくなったとき加える。終点の色は乳白色である。

5.滴定結果より、硫酸銅中の銅の重量及び含有率(%)を求める。



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